一言で
生成AI と著作権の関係について、日本の文化庁の審議会は、作品を AI の学習に使う段階と、AI が作ったものを生み出して使う段階に分けて整理しています。ただし、この整理そのものに法的な拘束力は無い、と文書の中で断っています。
このページで分かること
- 文化庁の資料が、学習の段階をどう整理しているか(著作権法第30条の4)
- AI が作ったものを使う段階で、何が問われるとされているか
- 国の指針や EU の決まりが、学習データについて何を求めているか
先に知っておく言葉
- 生成AI:文章や画像などを作り出す AI(→ 別ページ「生成AI とは」)
- 学習データ:AI のモデルを作るときに学習に使うデータ
- 追加的な学習:学習を済ませたモデルに、さらにデータを足して学習させること。文化庁の資料は、いわゆるファインチューニングなどを指すとしている(→ 別ページ「ファインチューニング」)
- RAG:外の情報を探して、指示と一緒に AI に渡して答えさせる仕組み(→ 別ページ「RAG(検索拡張生成)」)
文化庁の「考え方」の位置づけ
文化審議会著作権分科会の法制度小委員会が2024年3月15日にまとめた「AI と著作権に関する考え方について」は、生成AI で作品(著作物)が使われる場面を2つに分けて考えています。学習に使う「開発・学習段階」と、AI に作らせて使う「生成・利用段階」です。文書の冒頭で、公表した時点での小委員会の一つの考え方であり、法的な拘束力は無く、いまある特定の生成AI について確かな法的評価をするものでもない、としています。著作権法の解釈は、本来は一つ一つの事案ごとに裁判で判断されるもの、とも書いています。
学習の段階:第30条の4と、その例外
「考え方」によると、著作権法第30条の4は、2018年の法改正で設けられ、2019年1月1日に施行された規定です。作品に表された思想や感情を味わうこと(「享受」)を目的にしない使い方を、必要と認められる範囲で、許諾なしに認めています。情報解析はその典型の例で、AI の学習のために行うものもここに当たる、と整理しています。
文化庁著作権課の「AI と著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)も、学習データを集めるための複製には原則この規定が当てはまり、権利者の許諾は要らない、としています。そのうえで、当てはまらない場合がある、として次のような例を挙げています。
- 味わう目的が同時にある場合:学習データを集める場合でも、「享受」の目的が同時にあるとして、この規定が当てはまらない場合がある。例として、学習データの作品の表現(全部か一部)を出力させるための追加的な学習、データベースの作品の表現を出力させるための RAG 用のデータベースづくり、特定のクリエイターの少量の作品だけを使って、その表現を出力させるための追加的な学習(LoRA などの手法)を挙げている
- 著作権者の利益を不当に害することになる場合(規定のただし書):例として、AI の学習用に有料で出されているデータベースの著作物を、AI の学習のために許諾なく複製する場合を挙げている
学習のための複製を防ぐ技術的な措置について、「考え方」は、機械が読める方法での措置は、権利者やサイトの管理者の判断で自由にとれる、としています。一方で、反対の意思を示したことだけで、ただし書に当たるとは考えられない、としています。チェックリストは、こうした措置(ID とパスワードによる制限や robots.txt など)がとられていて、学習用のデータベースを有料で出す予定だと推し量れる場合に、措置を避けて集めると、ただし書に当たる場合がある、としています。
海賊版について「考え方」は、ネットにあるデータが海賊版かどうかを集める側が見分けるのは、難しい場合が多いと書いています。そのうえで、海賊版を載せているサイトだと知りながらそこから学習データを集めることは厳に慎むべきで、その場合、作られた生成AI で起きた侵害について、開発やサービスの提供をした事業者が責任を問われる可能性を高める要素の一つになる、としています。
作ったものを使う段階:「似ているか」と「もとにしたか」
「考え方」は、AI が作ったものを生み出したり、ネットで送ったりする段階の侵害は、人が AI を使わずに作るときと同じ条件で考える、としています。既存の判例では、既存の作品との類似性(似ていること)と依拠性(それをもとにしたこと)の両方が認められると侵害になるとされており、生成AI でも同じだ、という整理です。
依拠性について「考え方」は、3つの場合に分けています。使った人がもとの作品を知っていて、その表現を持つものを作らせた場合は、依拠性が認められるとしています。知らなかったが、その作品が AI の学習データに入っていて、似たものが出てきた場合は、ふつうは依拠性が推し量られるとしています。ただしこの場合も、学習した作品の表現が出てこない状態が技術の面で保証されていることなどから、出てこない状態だと法的に評価でき、使った人がその事情を示したときは、依拠性が無いと判断されることもありうる、としています。知らず、学習データにも入っていなかった場合は、偶然の一致として依拠性は認められない、としています。
国の指針と EU の決まり
- AI事業者ガイドライン(総務省・経済産業省、第1.2版、2026年3月31日):各主体が取り組む「共通の指針」の中で、権利を侵害した複製物など違法な内容を学習データに入れないことなどに気をつける、としている。AI と著作権の考え方は文化審議会の小委員会で整理されているとして、「考え方」やチェックリストを挙げ、その中身を踏まえて各自の対応を考えるのが大事だ、としている
- EU の AI 法(欧州委員会の公式ページ):汎用 AI モデルを出す事業者に、透明性や著作権についての決まりを設けている。学習に使った内容の概要を公開するためのひな形では、データの出どころ(大きなデータセットや主なドメイン名を含む)など、学習に使ったデータの概要を示すことを事業者に求めている(→ 別ページ「AI の規制と指針」)
出典ごとの違い
学習データの中身を外に知らせることについて、EU の公式ページは、汎用 AI モデルの事業者に概要を示すことを求める、と書いています。文化庁のチェックリストは、学習データの出どころなどを AI の利用者に知らせるよう、技術的にできるかや営業秘密との関係も考えながら、できる限り努めることが望まれる、としています。
また、AI事業者ガイドラインは、文化庁のチェックリストと内閣府の「AI 時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」が、このガイドラインと違い、開発者・提供者・利用者に加えて、業務の外で使う一般の利用者と権利者も対象にしている、と注記しています。
関連する言葉
- 生成AI・ファインチューニング・RAG・データの扱い(→ この欄の別ページ)
出典
- 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」2024年3月15日 bunka.go.jp ↗
- 文化庁著作権課「AI と著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」2024年7月31日 bunka.go.jp ↗
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編 2026年3月31日 soumu.go.jp ↗
- European Commission(Shaping Europe's digital future)「AI Act」最終更新 2026年8月3日 digital-strategy.ec.europa.eu ↗
確認メモ:2026年10月1日に、上の出典を開いて確かめました。文化庁の「考え方」は、冒頭の注意書き・はじめに・第30条の4のこれまでの整理・開発学習段階(享受目的の併存、ただし書、技術的な措置、海賊版)・生成利用段階(類似性と依拠性)を読みました。チェックリストは、はじめにと AI 開発者のリスク低減方策の部分を読みました。AI事業者ガイドライン第1.2版は、共通の指針の「適正学習」と、知的財産関連法令についての脚注(文化庁の資料の紹介と、対象の違いの注記)を読みました。EU は欧州委員会の公式ページの汎用 AI モデルの節で、決まりとひな形の説明を確かめました。このページは、それぞれの資料に書かれた考え方を出典名を付けて紹介したもので、個別の場合に侵害になるかどうかの判断は書いていません。生成物そのものが著作物になるか、侵害のときに取りうる措置(差止め・損害賠償など)、作風の扱いは、「考え方」に節がありますが、このページでは載せていません。AIログのニュースでは、この言葉はまだ出てきていないため、「ニュースでの出方」の節は置いていません。国の文書は公共データ利用規約にもとづき、内容を言い換えて使っています(出典:文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」、文化庁著作権課「AI と著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を加工して作成)。