一言で
フロンティアモデルは、いちばん先を行く、とても能力の高い AI のモデルを指す言葉です。AGI(汎用人工知能)は、多くの作業を少なくとも人と同じくらいこなせる AI を指す言葉です。どちらも、出典によって線の引き方が違います。
このページで分かること
- フロンティアモデルの定義が、出典によってどう違うか
- AGI について出されてきた定義と、段階に分ける考え方
- 日本の指針の「高度な AI システム」と、作る会社に求められている備え
先に知っておく言葉
- 基盤モデル:幅広いデータで学習し、いろいろな作業に合わせて使えるモデル(→ 別ページ「基盤モデルとは」)
- 生成AI:文章や画像などを作り出す AI(→ 別ページ「生成AI とは」)
- ベンチマーク:AI の性能を比べるための決まった試験(→ 別ページ「ベンチマークと評価」)
- レッドチーミング:わざと弱点を探して AI を試す評価のやり方(→ 別ページ「レッドチーミングと安全性の評価」)
フロンティアモデル:出典ごとの定義
- 論文「Frontier AI Regulation」(2023年7月、arXiv。複数の研究機関や AI 企業に所属する研究者の連名):能力のとても高い基盤モデルのうち、公共の安全や世界の安全保障に深刻なリスクとなるほど危険な能力を持ちうるもの、と定義している。危険な能力の例には、専門家でない人に生物・化学兵器の設計を可能にすること、一人ひとりに合わせた説得力の強い偽情報を作って広めること、人をあざむいて人の管理から外れること、などを挙げている。ただ、その線をどこに引くべきかははっきりしない、とも書いている。決まった作業だけをする狭いモデルは、危険な能力があってもこの定義からは外している
- Frontier Model Forum(Amazon・Anthropic・Google・Meta・Microsoft・OpenAI が会員の、業界の非営利団体。2023年設立):「フロンティア AI」を、広くは、その時点で最先端にある汎用の AI モデルのことで、分野が進むにつれて顔ぶれが入れ替わるもの、としている。会員の条件に使う定義は、ふつうの性能のベンチマークか、リスクの高い能力の評価で、広く使われて12か月以上たつほかのすべてのモデルを上回る汎用のモデル。より多くの関係者が団体の活動に加われるよう、いまの最先端だけよりわざと広くしてある、と説明している
論文は「危険な能力を持ちうるか」を定義の中心に置き、Frontier Model Forum の会員向けの定義は「すでに広く使われているモデルを上回るか」で線を引いています。
日本の指針では「高度な AI システム」
総務省・経済産業省の AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月31日)は、「高度な AI システム」を、最先端の基盤モデルと生成AI システムを含む、いちばん高度な AI システムとしています(広島 AI プロセスの定義を引いたもの)。こうしたシステムを作る事業者には、G7 の広島 AI プロセスの国際行動規範(2023年10月)を参照するのが望ましいとしています。その規範では、市場に出す前も含めて、レッドチーミングなどの評価でリスクを探して手当てすることを求め、気をつけるリスクとして、化学・生物・放射性物質・核の兵器にかかわるリスク、攻撃に使えるサイバーの能力、物理的な仕組みの制御や重要なインフラへの干渉を含む健康・安全へのリスク、モデルが自分の写しを作ること、有害な偏見や差別などを挙げています。
上の論文も、最低限の安全の基準として、公開前のリスク評価、外部の専門家による検証、評価の結果にもとづく公開の判断、公開後の見守りを挙げています。論文は、こうしたモデルの規制が難しい理由として、危険な能力は思いがけず現れうること、公開したモデルの悪用を確実に防ぐのが難しいこと、能力が広く出回るのを止めにくいことを挙げています。
AGI:いくつもの定義
Google DeepMind の研究者の論文「Levels of AGI」(2023年11月に公開、ICML 2024 で発表)は、AGI を、多くの作業で少なくとも人と同じくらいできる AI システムを表す言葉で、大事だが議論を呼ぶこともある考え方、と説明しています。この論文は9つの定義を比べており、たとえば次のものを紹介しています。
- 「artificial general intelligence」という言葉の最初の使われ方は、1997年に Mark Gubrud が軍事技術についての記事で使ったもの
- Legg と Goertzel(2001年に AGI という言葉を計算機科学者の間に広めた2人)の定義:人がふつうできる頭を使う作業をこなせる機械
- OpenAI の憲章(2018年):経済的に価値のある仕事の大半で人を上回る、高い自律性を持つシステム
論文自身は、考え方や意識のような「中の仕組み」ではなく「できること」で定義するべきだとし、性能の深さと、こなせる作業の幅の2つで段階を分ける案を出しています。自動運転の「自動化のレベル」が政策や進み具合の議論をはっきりさせたように、AGI にも段階を決めると役に立つ、という考えです(論文が引き合いに出している例)。段階は、多くの作業でその水準に届いているかで決め、一部の作業ではもっと上でもかまわない、としています。
- レベル1 Emerging:技能の無い人と同じか、少し上
- レベル2 Competent:技能のある大人と比べて、上位50%に入る
- レベル3 Expert:同じく上位10%に入る
- レベル4 Exceptional:同じく上位1%に入る
- レベル5 Superhuman:すべての人を上回る。幅広い作業でここに届くものを ASI(Artificial Superintelligence)と呼んでいる
論文は、書いた時点(2023年9月)の最先端の言語モデル(ChatGPT・Bard・Llama 2 など)を、短い作文や簡単なプログラムでは Competent だが、数学や事実にかかわる作業など多くの作業ではまだ Emerging で、全体ではレベル1にあたると見ています。また、労働の置き換えという OpenAI の憲章の基準は、レベル4(Exceptional)によく合う、としています。
ニュースでの出方
- OpenAI が次の上位モデル「GPT-6.1 Astra」を出さないと決めた記事で、同じ日に OpenAI が公開した指針「Towards safety cases for frontier AI training」が出典に挙がっています。記事では、強いモデルを訓練するときの安全の示し方(セーフティケース)の初期の指針、と紹介しています
- OpenAI、次の上位モデル「GPT-6.1 Astra」を出さないと決めた。理由は「任された範囲を守れない所」
関連する言葉
- 基盤モデル・生成AI・ベンチマークと評価・レッドチーミングと安全性の評価・AI の規制と指針(→ この欄の別ページ)
出典
- Markus Anderljung ほか「Frontier AI Regulation: Managing Emerging Risks to Public Safety」arXiv:2307.03718、2023年7月6日(第4版 2023年11月7日) arxiv.org ↗
- Frontier Model Forum「About」 frontiermodelforum.org ↗
- Frontier Model Forum「Membership」 frontiermodelforum.org ↗
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」2026年3月31日 soumu.go.jp ↗
- Meredith Ringel Morris ほか(Google DeepMind)「Position: Levels of AGI for Operationalizing Progress on the Path to AGI」arXiv:2311.02462、2023年11月4日(ICML 2024、第5版 2025年9月24日) arxiv.org ↗
確認メモ:2026年10月1日に、上の出典を開いて確かめました。論文「Frontier AI Regulation」は arXiv の PDF から文字を取り出し、要旨・要約と2.1節(定義と危険な能力の例)を読みました。Frontier Model Forum は、団体の紹介のページで定義を、会員のページで会員の会社を確かめました。AI事業者ガイドラインは第1.2版の用語の定義(「高度な AI システム」)と、第3部の広島 AI プロセスの国際行動規範の部分を読みました。このガイドラインの本文には「フロンティア」「AGI」という言葉は出てきませんでした。論文「Levels of AGI」も PDF から文字を取り出し、1〜4節と表1(段階の表)を読みました。出典ごとの違いは、フロンティアモデルの定義の軸(危険な能力か、ほかのモデルとの性能の比べ方か)です。AGI の定義は、各社の公式の文章では確かめておらず、Google DeepMind の論文が紹介した形で載せています(OpenAI の公式サイトはこの欄では使わない決まりのため)。「Levels of AGI」の最新の版(第5版)は、レベル4の名前を Virtuoso から Exceptional に変えたと書いており、ここでは新しい名前を使っています。論文の「2023年9月の時点」の見立てはその時点のもので、いまのモデルがどの段階かは、確かめた出典に書かれていないため載せていません。危険な能力は種類だけを挙げ、中身は書いていません。「汎用人工知能」は AGI のふつうの訳語を添えたものです。AIログのニュースでは、Anthropic の研究チームの名前(Frontier Red Team)が出てくる記事もありますが、フロンティアモデルの話ではないため挙げていません。国の文書は公共データ利用規約にもとづき、内容を言い換えて使っています(出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」を加工して作成)。