一言で
AI に決まりを設ける動きは、国や地域で形が違います。EU は、AI をリスクの大きさで分けて禁止や義務を定めた法律(AI Act)を持ち、日本は、AI の研究開発と活用を進めるための法律(AI 法)と、法的な拘束力を持たない指針(AI事業者ガイドライン)を出しています。
このページで分かること
- EU の AI 法が AI をどう分け、いつから何が当てはまるか
- 日本の AI 法と AI事業者ガイドラインが、それぞれどういうものか
- 国をまたいだ取り組み(広島 AI プロセス)
先に知っておく言葉
- 生成AI:文章や画像などを作り出す AI(→ 別ページ「生成AI とは」)
- 汎用 AI モデル(GPAI):EU の公式ページの言い方で、幅広い仕事をこなせて、EU で多くの AI システムの土台になりつつあるモデル
- ソフトロー:法的な拘束力を持たない決まり。AI事業者ガイドラインは自らをこう位置づけている
EU:リスクの大きさで4段に分ける
欧州委員会の公式ページは、AI 法(Regulation (EU) 2024/1689)を、AI についての包括的な法の枠組みとして世界で初めてのもの、と紹介しています。AI を作る側と、事業で使う側に向けた決まりで、AI の使い道をリスクの大きさで4段に分けます。
- 受け入れられないリスク:人の安全・暮らし・権利をはっきり脅かすとみなす使い方は禁止。社会的な点数づけ(ソーシャルスコアリング)、職場や学校での感情の読み取りなど、9つの行為を挙げている
- 高リスク:健康・安全・基本的な権利を深刻に脅かしうる使い方。例は、採用で履歴書を仕分けるソフト、融資の可否に関わる信用の点数づけ、試験の採点など。市場に出す前に、リスクの評価と軽減、結果をたどれる記録、人による見守りの仕組みなどの厳しい義務がかかる
- 透明性のリスク:たとえばチャットボットでは、相手が機械だと人が分かるようにする。生成AI の提供者は AI が作った内容を見分けられるようにし、ディープフェイクなど一部ははっきり表示する
- 最小限またはリスク無し:ゲームの AI や迷惑メールのふるい分けなど。決まりは設けておらず、EU で使われている AI の大部分がここに入る、としている
これとは別に、汎用 AI モデルを出す事業者には、透明性や著作権についての決まりがあります(→ 別ページ「著作権と学習データ」)。
EU:いつから当てはまるか
同じ公式ページによる日付です。
- 2024年8月1日:発効
- 2025年2月2日から:禁止の行為(9つのうち8つ)と、AI リテラシーの義務
- 2025年8月2日から:汎用 AI モデルの決まりと、運用の体制の決まり
- 2026年8月2日から:原則として全体(例外は下のとおり)。透明性の決まりも2026年8月から。この日から、EU の AI オフィスと加盟国の当局が監督と執行を受け持つ
- 2026年12月から:9つめの禁止(同意の無い性的な内容や、子どもの性的虐待の素材を作る AI)
- 2027年12月2日から:生体認証・重要なインフラ・教育・雇用などの分野で使う高リスク AI の決まり
- 2028年8月2日から:エレベーターやおもちゃのような製品に組み込む高リスク AI の決まり
高リスクの時期と9つめの禁止は、AI 法の運用を簡単にする改正(「AI Omnibus」と呼ばれる)で決まりました。公式ページによると、改正の提案は2025年11月19日に出され、2026年5月7日に政治的な合意に至り、2026年7月27日に発効しています。
日本:AI 法
正式な名前は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)です。内閣府によると、2025年5月28日に成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されました。内閣府の概要は、イノベーションを進めつつリスクに対応するには、今ある刑法や業種ごとの法律に加えて新しい法律が要る、と説明しています。概要に挙がっている主な中身は次のとおりです。
- 内閣総理大臣が本部長、全ての国務大臣が構成員の「AI 戦略本部」を置く
- 政府が実施する施策の基本的な方針などを「AI 基本計画」として定める
- 基本的な施策として、国際的な規範に沿った指針の整備、権利や利益が損なわれた事案を調べて対策を考えること、事業者などへの指導・助言・情報提供などを挙げる
- 事業者には、国などの施策に協力する責務がある、とする
この法律の第13条にもとづき、2025年12月19日に AI 戦略本部が「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」を決めています(AI事業者ガイドライン・内閣府のページ)。
日本:AI事業者ガイドライン
総務省と経済産業省の指針で、2024年4月に作られ、いまは第1.2版(2026年3月31日)です。AI を開発・提供・利用する事業者(政府・自治体などの公的機関も含む)が対象です。ガイドラインは自らを「非拘束的なソフトロー」と位置づけ、その背景として次のような指摘を挙げています。
- 法律を整えて施行するまでに、AI の技術の進む速さや複雑さとの間で時間のずれが出る
- 細かな行為の義務を定めるルールベースの規制は、イノベーションの妨げになりうる
- 働き手が減るといった社会の課題を解く手段として、AI が期待されている
そのうえで、関係者の自主的な取り組みを促し、目指すところ(ゴール)を示して導く考え方で作った、としています。また、憲法・知的財産に関わる法令・個人情報保護法など、関係する法令は守るべきだ、としています。
国をまたいだ取り組み:広島 AI プロセス
AI事業者ガイドラインによると、2023年5月の G7 広島サミットを受けて、生成AI の国際的なルールを話し合う場として始まりました。2023年12月に「広島 AI プロセス包括的政策枠組み」がまとまりました。高度な AI システムを開発する組織向けの行動規範を守っているかを自ら報告する「報告枠組み」は、G7 の合意(2024年12月)を経て、2025年2月に運用が始まっています。2026年3月の時点で、日本企業9社を含む25の組織が回答を出し、OECD のサイトで公表されている、としています。
出典ごとの書き方の違い
欧州委員会のページは、AI 法を、禁止と義務を定め、当局が監督・執行し、汎用 AI モデルについては AI オフィスが是正を求めたり罰金を科したりできる法律として説明しています。AI事業者ガイドラインは、自らを拘束力の無いソフトローとしています。内閣府の AI 法の概要は、本部・基本計画・基本的な施策・責務を柱に書いています。
ニュースでの出方
- Anthropic の研究チーム「誰でも使える中国の公開モデルが、攻撃の力で一線を越えた」… Anthropic の研究チームが、政府が強いモデルを独立して試験することなどを求めた記事。記事は分析の中で、公開モデルの規制の議論が進みそうだという見立てを【推測】として書いている
関連する言葉
- 著作権と学習データ・バイアス(偏り)・公開モデル(オープンウェイト)と非公開モデル・レッドチーミングと安全性の評価(→ この欄の別ページ)
出典
- European Commission(Shaping Europe's digital future)「AI Act」最終更新 2026年8月3日 digital-strategy.ec.europa.eu ↗
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)」 www8.cao.go.jp ↗
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)の概要」 www8.cao.go.jp ↗
- 内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」令和7年12月19日 本部決定 www8.cao.go.jp ↗
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編 2026年3月31日 soumu.go.jp ↗
確認メモ:2026年10月1日に、上の出典を開いて確かめました。EU の AI 法の区分・日付・改正(AI Omnibus)は、欧州委員会の公式ページ(最終更新2026年8月3日)の本文によります。法令の原文(EUR-Lex)は取得できなかったため、法令の番号は公式ページの表記により、採択の日付は書いていません。日本の AI 法は、内閣府のページと概要の PDF で、名前と成立・公布・施行の日付を確かめました。e-Gov 法令検索は確認した時点で保守作業中で開けず、法律の番号(令和7年法律第53号)と第13条にもとづく指針であることは、AI事業者ガイドライン第1.2版の「はじめに」と脚注によります。AI事業者ガイドラインは「はじめに」・広島 AI プロセスの脚注・共通の指針の冒頭を読みました。AI 戦略本部が決めた指針は、内閣府のページで名前と決定日を確かめ、中身はこのページでは扱っていません。罰金の額や、どの AI がどの区分に入るかの細かい基準は、法律の解釈に関わるため載せていません。「ソーシャルスコアリング」「ディープフェイク」は、公式ページの social scoring・deep fakes を日本語にしたものです。国の文書は公共データ利用規約にもとづき、内容を言い換えて使っています(出典:総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」、内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI法)の概要」を加工して作成)。「ニュースでの出方」は、AIログの記事の無料部分を読んでこのサイトがまとめたものです。