一言で
推論モデルは、返事を書く前に、指示を分けたり答え方を比べたりする「考える」段階を持つ AI のモデルです(OpenAI の説明)。このページで一緒に扱う「思考の連鎖」は、答えに至るまでの途中の筋道を、ふつうの文章で順に書いたものを指します。
このページで分かること
- 「思考の連鎖」とは何か(2022年の論文と Google の用語集の説明)
- 推論モデルが答えの前に何をしているか(OpenAI・Anthropic・情報通信白書の説明)
- 考える量の設定と、料金・見え方の関係
先に知っておく言葉
- 大規模言語モデル:大量の文章で学習した、文章を読み書きするモデル(→ 別ページ「大規模言語モデル(LLM)とは」)
- ニューラルネットワーク:計算の単位を層に並べてつないだモデル(→ 別ページ「ニューラルネットワークとは」)
- パラメータ:モデルの中で学習によって調整される数(→ 別ページ「パラメータとモデルの大きさ」)
- トークン:AI が文章を区切って数える単位(→ 別ページ「トークン」)
- コンテキストウィンドウ:モデルが一度に見られる量(→ 別ページ「コンテキストウィンドウ」)
- エージェント:AI が道具を使いながら、何段階もの作業を自分で進める仕組み(→ 別ページ「エージェントとツールの使用」)
- API:プログラムから AI を使うための窓口
思考の連鎖(chain of thought)
この方法を示したのは、Google Research の Jason Wei らの論文(arXiv:2201.11903、初版は2022年1月28日、NeurIPS 2022 で発表)です。論文は、途中の推論の段階を自然な文章で並べたものを「思考の連鎖」と呼び、それを書かせる指示の仕方を「chain-of-thought prompting」と名付けました。
論文の方法は、モデルを作り直さず、指示の中に「問題・途中の筋道・答え」の3つがそろった例を数個入れておく、というものです。論文の図1では、答えだけを示した例を渡されたモデルは、食堂のりんごの数を問う算数の文章題に「27」と誤って答えました。途中の計算まで書いた例を渡されたモデルは、自分も「23−20=3、3+6=9」と順に書き、正しく「9」と答えています。
論文が示した結果と、論文自身が書いた限界は次のとおりです。
- 効果は大きなモデルに限られた:小さいモデルでは成績が上がらず、上がったのはおよそ1000億パラメータの規模のモデルを使ったときだった。小さいモデルは、読みやすいが筋の通らない筋道を書き、ふつうの指示より成績が下がった
- 算数の試験での伸び:PaLM 540B に、筋道付きの例を8つ付けただけで、算数の文章題の試験 GSM8K で当時の最高の正答率に達した、としている
- 限界:人の考え方をまねてはいるが、ニューラルネットワークが本当に「推論」しているのかには答えていない、としている。また、筋道が正しい保証は無く、正しい答えにも誤った答えにもつながりうる、と書いている
Google の機械学習の用語集は、少し違う形で説明しています。用語集では、大規模言語モデルに筋道を一歩ずつ説明させる指示の書き方で、例は、車の加速の問題に「関係する計算をすべて示して」と一文を添えるものです。計算を全部たどらせるので答えがより正しくなる可能性があり、使う人が途中の段階を見て答えの筋を確かめられる、としています。
論文は「例を見せて筋道を書かせる」形、用語集は「指示の一文で筋道を求める」形を中心に説明しています。
推論モデル:答えの前の「考える」段階
情報通信白書 令和7年版は、大規模言語モデルの最近の大きな動きの1つに「推論モデルの登場」を挙げています。
- 情報通信白書 令和7年版:2024年9月に OpenAI が「OpenAI o1」シリーズを、難しい問題を解く推論モデルとして発表した、と紹介している。o1 は科学・コード生成・数学の多くの評価指標で GPT-4o を上回り、米国の数学オリンピックの予選のテストで約83%を解いた(OpenAI の発表にもとづく記述)。2025年1月の中国の DeepSeek の「DeepSeek-R1」は、o1 に並ぶ性能とされる、とも書いている
- OpenAI の説明:推論モデルは、入力と出力のトークンのほかに「推論トークン」を使い、返事の前に指示を分解し、答え方を複数検討する。計画を立てたり道具をうまく使ったりしやすくなり、込み入った問題・コード・科学の推論・多段階のエージェントの作業に特に向く、としている
- Anthropic(Claude の会社)の説明:考える機能が働いているとき、Claude は答える前に、何を問われているかを言い直し、やり方を試し、途中の結果を確かめ、うまくいかない道を捨てる。考える段階があると、数学・コード・分析・長いエージェントの作業で成績が上がる、と説明している。考えるかどうか、どれだけ深く考えるかは、設定と依頼の込み入り具合で決まる
OpenAI は「推論モデル」というモデルの種類として、Anthropic は「考える」という機能として説明しています。
考える量・見え方・料金
- 考える量のつまみ:OpenAI では、どれだけ考えるかを「reasoning effort」で指示する。選べる段階はモデルによって違い、低いほど速く使うトークンが少なく、高いほど丁寧に考えて質の高い返事になる、としている。Anthropic では「effort」で返事全体にかける手間を指示し、Claude が自分で考え方を決める設定(adaptive thinking)では、どれだけの頻度で・どれだけ深く考えるかもこれで変わる
- 考えの中身の見え方:OpenAI は推論トークンそのものを見せず、モデルによっては要約を返せる、としている。Anthropic も、返ってくる考えの文は要約で、生の思考の連鎖はどの設定でも返さない、と書いている。新しい Claude の多くは、初期の設定では考えの文を返さない
- 料金と量:両社とも、考えに使ったトークンは、文が見えなくても出力のトークンとして料金がかかる、としている。OpenAI は、推論トークンがコンテキストウィンドウの場所も使うこと、コンテキストウィンドウか、設定した出力の上限に届くと、見える返事が出る前に止まり入力と推論の料金だけがかかりうることも書いている
ニュースでの出方
Claude の新しいモデルの記事で、考える量の設定が出てきました。
- Sonnet 5.5 では、「考える量」のつまみで費用と速さを調整でき、初期設定はアプリと Claude Code で Medium、開発者向けの API で High でした。「考える」機能を切って使っていた開発者は、新しい設定(
between_tools)に変えてから移る必要がある、とも書かれています - Anthropic の新しい中位モデル「Sonnet 5.5」。値段は据え置きで、速く・少ない手数に
関連する言葉
- 大規模言語モデル・プロンプトとシステムプロンプト・トークン・コンテキストウィンドウ・エージェントとツールの使用・API と料金の数え方(→ この欄の別ページ)
出典
- Jason Wei ほか「Chain-of-Thought Prompting Elicits Reasoning in Large Language Models」arXiv:2201.11903、2022年1月28日(初版) arxiv.org ↗
- Google for Developers「Machine Learning Glossary」の chain-of-thought prompting の項 developers.google.com ↗
- OpenAI「Reasoning models」 developers.openai.com ↗
- Anthropic「Thinking」 platform.claude.com ↗
- 総務省「令和7年版 情報通信白書」第Ⅰ部第1章第2節「AI の爆発的な進展の動向」 soumu.go.jp ↗
確認メモ:2026年10月1日に、上の5つの出典の原文を開いて確かめました。論文は arXiv の PDF(第6版、2023年1月10日)の文字を取り出し、要旨・第1〜3章・第6章の限界の段落と図1・図2を読みました。「およそ1000億パラメータ」は第3.2節の記述で、図2の正答率の数字は図の中の値のため載せていません。Google の用語集は chain-of-thought prompting の項を、OpenAI は推論モデルの説明ページの「How reasoning works」「Reasoning effort」「Controlling costs」「Reasoning summaries」を、Anthropic は考える機能の説明ページの冒頭・仕組み・表示・effort の節を読みました。白書は「(ア)推論モデルの登場」と、DeepSeek-R1 を扱う「(イ)」の段落を読み、o1 の数字は白書が OpenAI の発表を引いた記述にもとづきます。各社の設定の名前の細かな段階や、モデルごとの初期設定の一覧は、モデルごとに違うため載せていません。「推論モデル」と「思考の連鎖」が同じものかどうか、どちらがどちらの元になったかは、確かめた出典に書かれていなかったため書いていません。「パラメータ」「API」「エージェント」の言い換えは、ふつうの意味を一言で添えたものです。国の文書は公共データ利用規約にもとづき、内容を言い換えて使っています(出典:総務省「令和7年版 情報通信白書」を加工して作成)。「ニュースでの出方」は、AIログの記事を読んでこのサイトがまとめたものです。